鉄骨のフレームが切り取る「未知の領域」
東京都現代美術館(MOT)に足を踏み入れた瞬間、背筋が伸びるような感覚に包まれました。視界に飛び込むのは、シャープで冷徹な鉄骨のフォルム。木の温もりとは対照的なこの先進的な空間は、これから対峙する「宇宙」や「量子」という目に見えない未知を受け入れるための、最高のインターフェースのように感じられます。
実は今回、私には密かな目的がありました。昨年の万博で見ることができなかった落合陽一氏のプロジェクト「null²」。その面影を求めての、いわば「万博リベンジ」でもありました。

溢れるキーワードが重なり合うポスター。
ここから「宇宙+量子+芸術」が織りなす無限の旅が始まります。
サイエンスが「魔法」にかかる瞬間
北大CoSTEPの同期3人での「対話的鑑賞」は、まさに「究極のサイエンスコミュニケーション」を体感する時間となりました。
データの「情緒」への翻訳
ロケットの打上や花火は、本来は加速度や燃焼効率といった「データ」の集積です。しかし、映像クリエイターの手にかかると、それは圧倒的な「美」へと翻訳されます。数値として処理していた現象が、心に訴えかける物語へと変わる。アウトリーチの新たなヒントをそこに見た気がします。

巨大な光の柱が、無機質な空間を情報の液体に変える。数値でしかないデータが「物語」として立ち上がる瞬間です。
「触図」 触感で識る宇宙の起源
特に唸らされたのが、筑波技術大学の視覚障害のある学生向けの教材でした。水(H2O)の生成を「触感」だけで表現する試み。「宇宙と物質の起源」という壮大なテーマを、五感に訴える形にまで凝縮する。これこそが、説明不要のコミュニケーションではないでしょうか。

筑波技術大学による試み。壮大な宇宙の起源を五感に訴える形に凝縮した、まさに究極のサイエンスコミュニケーションです。

水の生成(H2O)を、視覚ではなく「触れること」で理解する。
デジタルに宿る「身体性」
落合陽一氏の展示「リキッドユニバース」などで印象的だったのは、デジタル映像の傍らに置かれた「手足のフォルム」です。単なる情報の羅列ではなく、そこに「身体」を感じさせる造形があることで、科学は初めて私たちの現実に生々しく食い込んでくるのだと実感しました。

落合陽一氏の展示に見られる「手足のフォルム」。
この肉体的な造形と流動的なデジタル映像が生々しく感じられました。

QRコードがアートになる魔法
普段見慣れたビットマップやQRコードも、色彩をまとうことで息をのむほど美しいアートに変貌します。科学者だけでは思いつかない「見せ方の魔法」に圧倒されました。
重なり、もつれ、観測される未来
月着陸実証機SLIMに搭載された「SORA-Q」の展示。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の探査実験棟を模した空間に光が投影された瞬間、そこがアンリアレイジの2022-23年秋冬コレクション『PLANET』という名のアートへと変貌しました。
また、KEK(高エネルギー加速器研究機構)の曲解模型群も圧巻です。
大型実験設備という科学の実験場が、表現の力で「体験」の場へと昇華されたのです。
入口で約30分、じっくり映像を観てから中へ入ったことも正解でした。1人なら見落としていたかもしれない小さな光や音も、仲間と「これ、すごいね」と話し合うことで、無限(インフィニティ)の広がりに気づくことができました。
科学技術がアートの力を借りて、私たちの身体にスッと入ってくる感覚。それは、まだ見ぬ未来へのプロローグのようでした。
