首都圏外郭放水路(龍Q館)に行ってきました。埼玉県春日部市に位置するこの施設は、激甚化する気候変動に対し、日本の土木技術と現場の運用力で立ち向かう「生きた防災施設」です。

宿命的な地形と「地層」が語る物語

中川・綾瀬川流域は、皿のような低地という地学的弱点を抱え、古くから浸水被害に悩まされてきました。実は私の母校も綾瀬川支流の伝右川のほとりにあり、「大雨でよく浸水し、休講になることもかつてはあった」と入学時に聞かされたものです。そんな地域の記憶は、施設内の展示にも刻まれています。

知られざるエピソード

展示の目玉である「地層タワー」の調査に、私の同級生が自治体職員として携わっていたことを知りました。巨大インフラが、実は身近な人々の手によって地道に積み上げられてきたものであると実感し、胸が熱くなる思いでした。

調圧水槽建設時に発見された地層を展示する「地層タワー」。この地質調査に同級生が関わっていたと知り、インフラへの親近感が一気に湧きました。

神殿の構造美

調圧水槽にそびえる59本の巨大柱は、1本あたり500トン。10個のコンクリートブロックが整然と積み上げられたその姿は、まさに現代の知性が生んだ神殿です。

1本500トンの巨大柱。よく見ると、コンクリートブロックが10段積み上げられている継ぎ目が確認できます。まさに現代のピラミッドのような緻密さです。

「稼働後」に繰り広げられる、泥との戦い

地上の多目的広場にある「重機投入口」。ここからクレーンでブルドーザーを吊り下げて地下へ送り込むとのこと。

この施設は、決して「備え」だけの存在ではありません。驚くべきことに、現在年平均7回も実際に稼働し、首都圏を浸水から守っています。

ブルドーザーの空中移動

稼働後に残る大量の汚泥を取り除くメンテナンスは過酷です。地上からクレーンでブルドーザーを地下へ吊り降ろして作業を行います。見学通路にある車止めが、その実戦の激しさを物語っていました。

地下神殿から見上げた様子。巨大な天井に開いた開口部から重機が降りてくる光景を想像すると、維持管理とは言え、スケールの大きさに圧倒されます。

循環するインフラ

除去された汚泥は捨てられず、江戸川堤防の土砂として再利用されます。施設が川を守り、川の泥が堤防となって再び地域を守る。この美しいサイクルこそ、持続可能な防災の姿です。

「二次災害」を絶対に起こさない、緻密なポンプ運用

放水の主目的は江戸川への排水ですが、そこには「出す側」と「受ける側」の高度な駆け引きがあります。

逆流の恐怖

江戸川の水位が高く排水が困難な場合は、無理に流さず元の川へ水を戻します。もし排水ポンプの水が逆流すれば、津波と同様の現象が起きてしまうそうです。

判断の科学

危険な場合はあえて元の川へ水を戻す。地球温暖化で予測不能な降水が増える中、この緻密なポンプ運用と「引く勇気」が、二次災害を防ぎ、首都圏の安全を担保しているのです。