極地研での「本物の熱量」とのギャップ

この春に東京・立川にある国立極地研究所(極地研)の「南極・北極科学館」を訪問し、展示解説ツアーに参加しました(参考記事:昭和からつながる「未知」へ―国立公文書館と国立極地研究所でたどる、極域科学の過去・現在・未来)。説明員は南極観測隊員として、何度も南極に行かれた方で、「生の声」で現地での体験や様子をリアルに聞くことができました。
実は、この4月の極地研訪問も、今回足を運んだ日本科学未来館(Miraikan)での特別展「大南極展」も、北海道大学CoSTEPの同期との「対話型鑑賞」として観に行ったものです。南極観測70周年記念事業の一環として夏にMiraikanで本特別展が開催されるということで、今回の企画となりました。海外からも参加者が集まりました。
企画展の会場に入る前、私たちはまずドームシアターで『BLUE OCEAN DOME』を鑑賞しました。

大阪・関西万博で公開された映像をMiraikan向けに特別にローカライズした、約10分間のフルCG作品です。万博へもこのCoSTEP同期メンバーで足を運んだのですが、当時はこのパビリオンを観ることができませんでした(万博訪問時はまだこのようなブログを書いておらず、記事として残せていないのが悔やまれます)。本作にはナレーションが一切ありません。プラスチックごみが増え続ける海と、豊かに生命がつながる地球の姿を、言葉を使わずに圧倒的な映像美と音響だけで伝えるアプローチです。世界共通の「言葉のないサイエンスコミュニケーション」を堪能し、これから向かう「大南極展」ではどのような手法で科学が伝えられるのか、私たちの期待は大きく高まりました。

いよいよ大南極展の会場へ。Miraikanの企画は、南極上陸エリアから観測エリアに入り、昭和基地エリアに到達します。展示は、南極上陸エリアで南極の氷に触れることから始まります。南極氷に触れる、これは、極地研も同じです。

しかしながら、観測エリアに入ると子ども向けには、ペンギンのはく製が多く並んでいたり、体重測定や雪上車へ乗ってみる体験、展示スペースのあちこちにすみっコぐらしのキャラクターがちりばめられてそれを探す企画などは夏休みの子ども向けで、最初は「少し薄っぺらい商業的な展示」と感じました。

親をも巻き込む「ミッションシート」

企画展入口で、「特別南極観測隊ミッションシート」をもらいました。

見学者は特別南極観測隊として、「南極や観測のことを学びながらミッションをクリアして、認定証を完成させよう!」とあります。観測エリアで使うシートでした。 隊長とある伊村智先生は、国立極地研究所の総括副所長で、これまでに5回南極観測隊のメンバーとしてだけでなく、イタリア隊、アメリカ隊、ベルギー隊にも参加されている苔の専門家とのことです。

観測エリアはペンギンや雪上車といった「キャッチーなフック」がある一方で「難解でマニアックな専門展示」があり、同じ場所にあるもののコンテンツのギャップに驚かされました。

このミッションシートは、展示Mapにもなっており、展示の近くには、ミッションであるクイズの解答を記入する場所がそれぞれのミッションごとに設けられていました。 しかし会場の観察を続けると、このミッションシートは、子どもだけのものではないことに気づきました。マニアックで難しい展示を「読ませる」ための仕掛けでもあったのです。

このタイプのクイズは兎角、タイトルやその近くに答えが書いてあることが多いのですが、今回のクイズは、しっかり展示の解説を読んでいかないと答えが見つからない形でした。子ども向けのクイズ(ミッションシート)を解くために、実は大人が一生懸命になって難しい解説文を読み解かされているという面白い光景でもあったのです。

観測エリアでは、7つの観測エリアがありました。 それぞれが非常に工夫されていたのですが、やはり「専門的すぎる解説」と「分かりやすい解説」のレベル感が混在していたように思えました。それぞれの専門家が原案を監修しつつ、企画者がレベルを揃えたとは思いますが、本当にこれは難しいのだと感じました。

離脱を防ぐ絶妙な「切り替え」

小さな子どもや、極域科学のマニアックで高度な技術の解説が小難しく「もう次に行こうか」と疲労を感じた大人にとって、絶妙なタイミングで現れるのがブリザードエリアでのオーロラの映像やブリザードの疑似体験です。

南極を身体で感じることで、退屈な感覚がリセットされ、そのまま「昭和基地での具体的な生活」という共感しやすいテーマへ繋ぐ見事な導線となっていました。「離脱させないためのサイエンスコミュニケーションの工夫」はお見事です。

歴史をつなぐ船と、二つのアプローチ

特定の研究開発法人等の展示施設を訪れる機会は少ないかもしれません。よほどの興味がない限り、どこに行ったらよいか迷うこともあるでしょう。 他方、Miraikanや国立科学博物館のような多くの科学技術の内容を一度に見たり体験できる場所であれば、ふらっと出かけることもできるし、安心して子どもを連れていくことができると思います。

会場には、歴代の南極観測船が艦番号順に並んだ模型の展示もありました。初代から現在の「しらせ」へと至る船の系譜は、まさに私が4月の記事(『昭和からつながる「未知」へ―国立公文書館と国立極地研究所でたどる、極域科学の過去・現在・未来』)で辿った、昭和から続く日本の極域科学の歩みそのものです。 折しも、直近の6月30日には文部科学省で第168回南極地域観測統合推進本部総会 が開催され、「しらせ」退役等に伴う第76次以降の輸送体制について、同後継船の所有及び運用主体を海洋研究開発機構(JAMSTEC)、ヘリコプターの運用主体を国立極地研究所とすることが決定されたばかりです。歴代の船が並ぶ姿を前に、組織の大きな転換期にあっても、未知へと挑む科学の探求は次の世代へと確実に受け継がれていくのだと感慨深いものがありました。

今回、国立極地研究所の研究現場とMiraikanで同じ研究所の研究内容を観ることとなりました。この貴重な機会は、科学を社会に伝えるためのアプローチの違いを感じ、非常に興味深く面白かったです。研究所では、「最新の研究現場の情報と生の体験の圧倒的な強さ」があります。他方、Miraikanは、多くのサイエンスコミュニケーターがおり、「世代を超えた一般客を惹きつけ、離脱させないための緻密なデザイン」がしっかりと考えられ、実践されています。

Miraikanの大南極展が面白いと思ったら、ぜひ、立川にある国立極地研究所の「南極・北極科学館」を訪問されることをおすすめします。