国研の技術は、いざという時に私たちを救う知のインフラ

7月28日に発生した「令和8年熊本地震」や8月13日に発生した「令和8年8月千葉豪雨」では、被災地の最前線で、長年の基礎研究の積み重ねから生まれた国立研究開発法人(国研)の最先端技術が大活躍しています。こうした技術が私たちの災害対応を支えていることは、実はあまり知られていないように感じています。

政府が策定した「骨太の方針2026」には、「令和12年度までの研究開発投資目標(政府:60兆円、官民:180兆円)」(P.33脚注156)という巨額の数字を掲げ、「国立研究開発法人の機能強化によって、先端科学環境と産業競争力強化を実現する」(P.7)と明記されています。
主な支援技術とその重要性を、最近の災害を例に整理してみたいと思います。

宇宙から「影」を逃さない JAXA『だいち4号』と『だいち2号』の連携

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の人工衛星『だいち4号』は、設計寿命を超えて現在も運用されている『だいち2号』と連携し、2機体制で宇宙から被災地を観測しています。『だいち2号』は、昼夜・天候の影響を受けずに観測できることが特長です。 『だいち4号』は、200kmという観測幅を持ち、地殻・地盤変動による異変の早期発見、広域の災害状況把握ができるのです。今回の熊本地震でも『令和8年熊本地震の観測結果について』という形で、発災直後から大きな威力を発揮しています。「令和8年熊本地震」に伴う地殻変動として、国土地理院からも『だいち2号』及び『だいち4号』の観測データを用いたSAR干渉解析が公表されています。

リアルタイムで情報を統合 防災科研『防災クロスビュー』

国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)が開設している『防災クロスビュー』は、『基盤的防災情報流通ネットワーク(SIP4D)』を活用し、衛星画像や避難所状況などの情報を組織の壁を越えて統合しています。

これにG空間情報センターの『RTDS(リアルタイム災害情報提供システム)』が加わり、車両の24時間通行実績などの動的データを重ね合わせることで、救助ルートの検討などを支援しています。

『令和8年8月千葉豪雨』では、防災科研の『次世代気象災害監視レーダー』も稼働し、その調査結果が公開されています。

研究から実装へ NICT『耐災害ICT』と『JAPANローミング』

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した地域分散ネットワーク『NerveNet(ナーブネット)』は、公衆網が途絶した環境でも自律的に通信を確保する「フェーズフリー」な通信基盤として、すでに白浜町や延岡市などで社会実装が始まっています。

特筆すべきは、2026年4月から始まった『JAPANローミング』です。災害などで契約している携帯事業者のネットワークが利用できなくなった場合、他の事業者のネットワークに切り替えて通信を可能にするしくみです。
こうした事業者間連携の背景には、NICTや東北大学、NTT未来ねっと研究所などが、東日本大震災の教訓から10年以上にわたって積み重ねてきた研究があります。

NICTの数値評価によれば、事業者間が連携してリソースを補い合うことで、80%の通信サービスを復旧する所要時間を、大規模災害で30%以上、小規模災害では70%以上短縮できるとされています。

これらの技術は、一朝一夕にできたものではありません。以前のブログ記事でも触れた通り、「平時から備える基礎研究」があったからこそ、有事の際に機能を維持できるのです。「骨太の方針2026」のサブタイトルにもある「責任ある積極財政」による180兆円の投資は、まさにこうした、いざという時に私たちを救う「知のインフラ」となっています。

科学技術の発展にも人社系の専門知が求められる

今回の「骨太の方針2026」では、大都市圏の大学等における「人社系のダウンサイジング」(P.33)が言及されています。しかしながら、AIや量子、宇宙といった17の戦略分野(P.4)の社会実装に向けては、法制度やガイドラインも必要となります。
例えば、既に宇宙法の分野では、宇宙資源ビジネスに関する国際条約としての宇宙条約や月協定がありますが、2021年6月に、「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律」が制定される等、こうしたルールをつくる場面では、法学をはじめとする人文・社会科学の専門知が必要になります。

研究開発投資を大きく増やす一方で、その成果を社会につなぐための人文・社会科学の専門知をどう確保していくのか。この点は、忘れないでいただけないかと思っています。

今回の地震、そして豪雨被害を通じて、日本の科学技術が持つ力を見せつけられた気がしています。官民合わせた180兆円の研究開発投資はきっと役立つ。180兆円という国家の挑戦は、遠い世界の話ではなく、実は私たちの「日常」を支える力になっていることを知ることも、それを伝えることも、とても大切なことだと思っています。

少し脱線しますが、今回の「骨太の方針2026」において、自治体AX/DXを推進する文脈で「改正行政書士法を踏まえ、適切な対応を図る」(P.161)と明記されました。行政手続を支える専門職の役割が、自治体AX/DXの文脈で明記されたことは、行政書士としても興味深く受け止めています。法学の専門知を少しでもみなさまへ提供できるよう、自分にできる仕事を一つずつ丁寧に取り組んでいこうと思っています。